空間パースの基礎知識

2000/5

 第二次世界大戦中、ゼロ戦パイロットとして数多くの敵機を撃墜してきた坂井三郎氏。撃墜王として勇名を馳せた氏の著書「大空のサムライ」を父親が図書館から借りてきたのを、当時中学生だった僕もなにげなく読みました。すでに片鱗があったとはいえ自覚の乏しかった僕は、まさかゼロ戦パイロットの手記がのちのオタクな活動に活かされることになろうとは、この時は知る由もありませんでした(^^;。

 空を飛ぶパイロットにとっては常識のようですが、「地平線より上に見えるものは自機より上にある」のだそうです。なぜなら、地球は丸くても、地平線は限りなく遠くにある稜線なので、自分と地平線の高度差・俯角は限りなくゼロに等しくなります。よって、地平線を境に目標物の高低を知ることができるのです。

 仮に地平線の上に敵影が見えたなら、敵の高度は自機より上。敵影が地平線より下なら敵機は下。どんなに距離が離れていてもこの原則は変わりません。この「地平線(水平線)=自分の目の高さ」という法則を知り得たことは、僕にとって画期的な発見でした。

 お絵描きの世界ではパースという用語で表わされることが多いようですが、ようするに物体の位置関係、とくに高さの違いによる遠近感を意味しているようです(正直言って、僕は正確な意味を知りません(^^;)。パースを意識しなくても、手描きのお絵描きだとなんとなく描けちゃったりしますが、実写の風景とお人形の合成写真だとそうはいきません。パースが狂っていると、なにか変だと感じます。実写風景とお人形ではスケールが異なるのも、違和感を招く一因でしょう。しかし、「地平線=自分の目線の高さ」という法則に注意すれば、致命的なミスは防げるはずです。当然、この法則は写真のコラージュだけでなく、手描きのお絵描きにも活用できます。

山崎川散策路  では、左の写真にお人形を合成してみましょう。画面手前の柵のあたりに立たせて手すりに手を置かせたいので、そのための位置決めを考えます。

 この写真は僕が普通に立って撮影したものです。一直線の道が画面の奥で収束していますが、はっきりとした地平線はありません。また、画面左の柵の大きさは実際どのくらいなのか、この写真からは判断がつかないので、お人形の立ち位置を決める参考になりません。
 写真をよく見ると、画面奥にいろいろ写っていることがわかります。歩道に停めてある赤い自転車(それとも赤カブ?)と、歩行者、それと自転車に乗っている人。一番奥には自動車も写っているようですが、ここでは無視します。 画面奥

  赤い自転車は人が乗っていないので大きさや位置の参考になりませんが、歩行者と自転車の人は、写真を撮影した僕とおおむね同じくらいの高さのはずです。身長が10cmや20cm違っていても、距離が離れているので、その程度の誤差は無視できます。

 となると、歩行者と自転車の人と僕の目線は、地平線上に並ぶはずです。サアラは僕よりも背が低いので、サアラの目線は地平線より下になります。

地平線  したがって、左図のようになります。サアラの目が地平線よりも下にくることさえ厳守すれば、サアラの大きさが大きくても小さくても、パースには問題ありません。

 サアラの身長については公式設定が無いようなので、「160cmくらいかな?」と思ってこのように配置したのですが、僕の身長が170cmであることを考えると、もう少し下のほうがよかったかな? まいっか(^^;。

下校風景

 初夏の昼下がり、葉桜の並木道をぷらぷらと歩いて帰る女子高生。そんな風景を想定してみました。首のジョイントを改造した素体で、手首の関節はフォトショップで修整してあります。

 膝下が画面からはみ出ているので、見るほうとしてはやや物足りないかもしれませんね。足の運び方で色気と動きが出てくるので、僕としてもぜひ見せたかったところですが、構図を優先したので仕方がありません。

 今回の作例では足元が写っていないので、お人形をどこに配置したらいいか迷いそうですが、地平線の法則を知っていれば簡単です。地平線の法則は、周囲に目標物が何も無い場所(砂漠とか大平原とか大海原とか、とにかく遭難したらヤバそうなところ)でこそ真価を発揮しますが、自分の目線の高さと、それを結ぶ目標物があればいつでも活用できます。ぜひお試しあれ。

 …なーんて偉そうなこといってますが、今回の作例にはひとつ、怪しい部分があります。サアラの右手の位置です。手すりに手をかけているように描写しましたが、その位置は本当にサアラの右横だろうか? もしかして後ろにあるはずの部分に手を置いているのではないか? 手すりに手を置いているように見えるのはダマシ絵で、本当は右手は空中にあるのではないか? 路面の石と見比べると矛盾は無いか? …と心配になって、縦線・横線を引いて確かめてみたら、問題ありませんでした。ああ、よかった(^^;。

 20年前に読んだ「大空のサムライ」が、今になって役立ちました。坂井三郎さん、ありがとう(笑)。

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